ソフトウェアテストを自動化するメリットとは? 失敗しない進め方からAI活用まで解説

ソフトウェア開発の現場では、品質とスピードの両立が常に求められます。こうした課題の解決策として、テスト自動化があります。

本記事は、客観的なデータに基づく意思決定に役立つよう、テスト自動化のメリット・デメリットから、テストの性質に応じた向き不向き、導入のポイント、AIの活用事例までを網羅的に解説します。

テスト自動化とは? 3つの特徴

①テスト自動化はツールやスクリプトでテスト工程を機械化す

テスト自動化とは、専用のツールやテストスクリプトを活用し、従来は手動で行われていたソフトウェアテストの一連の工程を自動化する手法です。

具体的には、テストケースの実行、結果の確認、レポート作成といった作業を機械が担うことで、テストにかかる時間を大幅に短縮します。特に、機能追加や修正のたびに繰り返し実行されるテストや、手順が複雑なテストにおいて、その効果を大きく発揮します。

②テスト自動化は品質を安定させる

テストを自動化すると、あらかじめ定義された手順を正確に繰り返すため、人為的なミスを防ぎ、テストの信頼性を高められます。

また、広範囲のテストを継続的に実施できるため、手動では見逃しがちな不具合も早期に発見でき、ソフトウェア全体の品質向上につながります。

③テスト自動化では人とツールの役割を分担する

テスト自動化といっても、全てのテストを手動から置き換えるわけではありません。手動と自動化の戦略的な使い分けが求められます。

単純で反復的な作業はツールに任せ、人間はより創造性や専門的な知見が求められる探索的テストや、ユーザビリティの評価といった主観的な判断が必要なテストに集中します。

自動化によって創出された工数を、人でしかできない高度なテストや新しい機能開発に再配分することが、テスト自動化が目指す大きな目的の一つです。

テスト自動化のメリット

テスト自動化を導入することで、開発プロセス全体に多岐にわたるメリットがもたらされます。

特に、近年の主流であるアジャイル開発やDevOpsでその恩恵は大きくなります。

ソースコードの変更があるたびにビルド、テスト、デプロイを自動的に実行するCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)パイプラインの実現には、自動化されたテストが不可欠だからです。

テストが自動化されていれば、開発者はコードの変更をリポジトリにプッシュするたびに、リグレッションテストを含む一連のテストが即座に実行されるという安心感を得られ、より自信を持って、かつ迅速に新機能のリリースを進めることができます。

<その他のメリット>

  • 夜間や休日もテストを実行できるため、製品やサービスをより早く市場に投入できる
  • 毎回同じ手順を正確に実行するため、ヒューマンエラーを大幅に減らせる
  • 長期的には、テストにかかる人件費を削減し、開発全体のコストパフォーマンスを高める

テスト自動化のデメリット

多くのメリットがあるテスト自動化ですが、注意点も存在します。

まず、自動化ツールの導入や、テストスクリプトを作成するための初期費用と学習コストがかかります。

さらにソフトウェアの仕様変更や機能追加に伴い、作成したテストスクリプトを継続的に修正・保守する必要があります。

自動化はスクリプトに記述された範囲しか検証できないため、予期しない不具合やユーザビリティの問題点を発見しづらい点も課題です。

テスト自動化の向き不向きを見極める

やみくもに自動化を進めても、期待した効果は得られません。テストの種類によって自動化の向き不向きがあります。

自動化に向いているテスト自動化に不向きなテスト
テスト種別リグレッション、スモーク、データ駆動探索的、ユーザビリティ、アドホック
繰り返し頻度高い(定期的、頻繁に実行される)低い(一度きり、滅多に実施しない)
仕様の安定性安定している(仕様変更が少ない基盤機能)流動的(開発初期段階の新機能、頻繁なUI変更)
結果判定の客観性客観的(期待結果が数値や状態で明確に定義できる)主観的(デザインの美しさ、使いやすさ等の感覚的評価)

自動化は再現性が高いテスト向き

自動化は、何度も繰り返し実施するテストで特に大きな効果を発揮します。代表的なものに、機能追加や修正が既存機能に悪影響を及ぼしていないかを確認するリグレッションテストや、ビルドの健全性を確認するスモークテストが挙げられます。

また、テストの手順や期待される結果が明確に定義されており、客観的な判断が可能なテストも自動化に適しています。多数のデータを入力して検証するテストや、複数のブラウザやOSといった環境で同じテストを行う場合も、手動では膨大な工数がかかるため自動化が非常に有効です。

判定が主観的なテストは不向き

一方で、人の感覚や主観的な判断が必要なテストは自動化には不向きです。例えば、使いやすさを評価するユーザビリティテストや、画面のデザインを評価するようなテストがこれにあたります。

また、開発初期段階で仕様が頻繁に変更される機能も、テストスクリプトの修正コストが高くなるため自動化の効果を得にくいでしょう。

事前に手順を決めず、テスターの経験や直感に基づいて不具合を探す「探索的テスト」のように、創造性が求められるテストも手動で行う方が効果的です。

テスト自動化を成功させるポイント

テスト自動化プロジェクトの成功は決して簡単ではありません。

「World Quality Report 2023-24」では、57%の企業が「包括的なテスト自動化の戦略をもっていない」ことを課題として挙げており、また品質エンジニアリング(QE)チームの学習プロセスを策定している企業は8割を超えるものの、その効果を追跡しているのは約半数にとどまると報告されています。

テスト担当者のスキル不足や育成の不足が、依然としてテスト自動化の障壁となっているのです。

こうした状況は、「目的が曖昧なままツールを導入する」「いきなり大規模に自動化を進めてメンテナンス不能に陥る」といった典型的な失敗パターンにつながります。

まずは「スモールスタート」を心がけ、コスト削減や品質向上といった目的を明確に共有した上で、仕様変更が少なく繰り返し実行される安定したテストケースから取り組むと良いでしょう。得られたデータを基にROIを測定し、関係者の理解を得ながら範囲を広げていきます。

テスト範囲を拡大する時には、メンテナンス性やチームのスキルレベルも考慮に入れておきましょう。

テスト自動化のツールは目的に合わせる

テスト自動化ツールには様々な種類があり、それぞれに得意な領域があります。目的やテスト対象に合わせて最適なツールを選定することが、成功への近道です。

UIテストは専用基盤が有効

ユーザーがブラウザやアプリケーションの画面を実際に操作する流れをシミュレートするUIテストは、多くのSaaS開発における中核的なテストです。かつてはSeleniumのようなオープンソースのフレームワークが主流でしたが、近年では、AIがUIの変更を検知してテストスクリプトを自動で修正する機能を持つ、メンテナンス性の高いクラウド型ツールも登場しています。非エンジニアでも扱えるノーコード/ローコードツールも多く存在するため、チームのスキルセットに合わせて選択することが可能です。

APIテストは軽量実行が向いている

APIテストは、UIを介さず、プログラム間の連携部分を直接検証するテストです。UIの描画を待つ必要がないため、UIテストに比べて軽量かつ高速に実行できるという大きなメリットがあります。PostmanやApidogといったツールは、直感的なGUIでリクエストの作成からレスポンスの検証までを行え、広く利用されています。CI/CDパイプラインへの組み込みやすさも重要な選定ポイントであり、コード変更をトリガーにテストを自動実行する仕組みを構築することで、不具合を早期に発見できます。

(補足)テスト自動化にAIはどこまで活用できるか

近年、AI技術の進化はテスト自動化の領域にも大きな変化をもたらしています。

実際に、テスト自動化ツール市場ではAI/機械学習機能を搭載した「インテリジェントオートメーション」が活用が広がっており、多くの主要ツールがUIの変更を自動で追従する「自己修復(セルフヒーリング)機能」を競って実装しています。

この動きは、これまでテスト自動化における課題であった「メンテナンスコストの高さ」を削減する可能性を秘めています。

AI活用例①テスト設計を補助する

これまで人手に頼っていたテスト設計のプロセスをAIが支援します。

実際に、AIが仕様書や要件定義書を解析し、必要なテストケースやテストデータを自動生成する技術が実用化され始めています。また、mablのようなツールでは、AIを活用した「自動修復」機能がUIの変更に追従し、テストのメンテナンス工数の削減に貢献しています。

自然言語で指示するだけでテストスクリプトを生成する機能も登場しており、専門的なプログラミングスキルがなくとも自動テストを作成できる未来が近づいています。

AI活用②テスト結果の解析を迅速化する

AIは、大量のテスト結果から有益な洞察を引き出し、デバッグ作業を効率化します。大量のテストが失敗した際、AIがログを分析して根本的な原因を推論することで、開発者は迅速に問題箇所を特定できます。

また、テスト結果のレポートを自動生成し、品質の傾向を可視化して改善活動を支援します。さらに、画像認識技術を用いて、テスト実行中の画面キャプチャを比較し、レイアウト崩れなどの視覚的な不具合を自動で検出することも可能です。

まとめ

テスト自動化は、単に手動テストを機械に置き換えるだけの取り組みではありません。これは、開発プロセス全体を高速化し、ソフトウェアの品質を継続的に向上させ、開発者がより創造的な作業に集中できるようにするための戦略的な投資です。

成功のためには、目的/KPIを明確にし、適用領域を見極め、小さく始めて計測しながら拡大しましょう。本記事で解説した内容が、貴社のテスト自動化導入の一助となれば幸いです。

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