半導体製造装置メーカーの開発現場では、装置制御ソフトウェアを担う人材の不足が深刻化しています。外注に踏み切ろうとしても、装置固有の知識を伝えるコストの高さが気になり、かといって内製だけで工数不足を解消するのも簡単ではありません。本記事では、こうした構造的な悩みを整理したうえで、外注・内製の二択にとどまらない「常駐参画」という第三の選択肢について、開発体制を検討する際の視点とあわせて解説します。

半導体製造装置メーカーが直面する市場拡大とソフトウェア人材不足のギャップ
AI需要が押し上げる装置市場の拡大
まず押さえておきたいのは、半導体製造装置を取り巻く事業環境が、ここ1〜2年で大きく変化している点です。日本経済新聞の報道によれば、2026年の半導体製造装置の世界市場は前年比23.2%増の1659億ドル(約27兆円)に達すると予測されており、AIデータセンター向けの先端半導体の需給逼迫を背景に、半導体メーカー各社が増産投資を打ち出しています。日経クロステックも、AIの普及や計算能力向上に向けた先端半導体の設備投資増加が装置市場を押し上げていると報じており、数年前とは市場の伸び方の質そのものが変わってきていることがうかがえます。
拡大する事業に追いつかないソフトウェア人材の確保
一方で、この事業拡大を支えるべきソフトウェア人材の確保は、市場の伸びに追いついていないという指摘が複数の報道で共通して見られます。装置メーカーでは以前からエンジニアの採用難が続いており、その中でも特にソフトウェア人材は母数自体が少なく確保が難しいという声が業界内で挙がっています。装置の生産能力を増やす投資が先行する一方で、その装置を動かす制御ソフトウェアを開発・保守する人材の手当てが追いついていないという不均衡が、いま多くの開発マネージャーが直面している構造だと考えられます。新機種の立ち上げや既存機種の改修計画が、こうした人材面の制約によって思うように進まないという開発責任者も少なくないでしょう。
なぜ装置制御ソフトの開発は「外注」も「内製」も簡単ではないのか
外注が難しい理由:ドメイン知識の説明コスト
ソフト人材が不足しているなら外注すればよい、という単純な話にならないのが、装置制御ソフトのような専門性の高い開発領域の難しさです。当社がこれまで組み込み・制御ソフトの開発体制構築を支援してきた経験から見ても、この種の開発を外部に委託する際には、装置固有の通信仕様や過去の不具合対応の経緯といった「ドメイン知識」を発注先に伝えるコストが発生します。説明に時間とコストをかけて外注しても、期待した品質や保守性が得られなければ、開発をふたたび自社で抱え込まざるを得なくなります。
内製が難しい理由:採用難による工数不足
一方で内製に振り切ると、今度は前述の採用難がそのまま効いてきて、恒常的な工数不足を解消できないという矛盾に陥ります。つまり装置制御ソフトの開発体制は、「外注か内製か」の二択で考える限り、どちらを選んでも根本的な解決にならない構造を抱えているのです。この構造は半導体業界に限った話ではなく、自動車の機能安全開発など、要求管理やトレーサビリティを重視する組み込み開発全般に共通する課題だと考えられます。だからこそ、外注でも内製でもない第三の体制の組み方を検討する余地があります。
ご相談
装置制御ソフトの開発体制、その進め方で合っていますか?
外注・内製・常駐支援、どの組み合わせが自社に合うかは体制や製品特性によって異なります。まずは現状の課題からお気軽にご相談ください。
第三の選択肢としての「開発チームへの参画」という体制
外注と内製の間にある現実的な選択肢が、当社の技術者が開発チームに直接加わり、内製チームと並走しながら開発を進める「技術者の常駐支援」という体制です。一括で仕様を渡して成果物だけを受け取る受託開発とは異なり、常駐支援では技術者が日々の開発の中でドメイン知識を吸収しながら手を動かすため、都度の説明コストを抑えながら実務に貢献できます。この体制には、大きく2つのメリットがあります。
1. ドメイン知識が内製チームに残る
装置固有のノウハウを外部の担当者に一方的に説明する負担が減り、内製チーム側にもノウハウが残りやすくなる点が、一括受託にはないメリットです。常駐する技術者が内製チームのメンバーと日々やり取りしながら開発を進めるため、知識が一方通行で終わりません。
2. 品質を担保する開発プロセスごと持ち込める
単に人員を補充するのではなく、要求管理やレビュー・検証といった開発プロセスそのものを技術者と一緒に持ち込めるかどうかは、常駐支援を検討するうえで見落とされがちな観点です。プロセスごと持ち込める体制であれば、常駐期間が終わった後も、開発の進め方自体が内製チームに根付いて残ります。外部リソースの活用を検討する際は、人手を補うだけの体制か、進め方まで含めて持ち込める体制かを見極めることが判断材料になります。
外注先・常駐パートナーを選ぶ際に確認すべき3つのポイント
外注にせよ常駐支援にせよ、パートナーを選ぶ際に開発責任者が確認すべき視点は共通しています。
1. 要求管理とトレーサビリティを前提とした開発プロセスの経験
ドキュメントと実装の整合性を追跡できる体制がなければ、C/C++資産の保守やリファクタリングの際に「どこを直せば安全か」を判断できず、かえって不具合を増やすリスクがあります。
2. 開発と検証を分離した体制を組めるか
開発と検証を同一の担当者が兼務していないか、独立した検証体制を組めるかどうかも重要な観点です。自動車業界の機能安全規格であるISO 26262(自動車の電気・電子システムの機能安全に関する国際規格)では、安全度水準(ASIL)に応じて、開発を担当する側と検証を担当する側の独立性を求める考え方があります。装置制御ソフトのような高い信頼性が求められる開発においても、開発と検証を分離できる体制かどうかは、同様に確認しておきたい観点だと考えられます。
3. 契約形態を柔軟に変更できるか
契約形態が受託と常駐のどちらであっても、途中で体制を柔軟に変更できるかどうかを事前に確認しておくと、プロジェクトの進行に応じた調整がしやすくなります。たとえば、まずは特定機能の開発を技術者の常駐支援という形で任せ、内製チームの理解が深まった段階で受託範囲を広げていく、といった段階的な体制の組み方も検討の余地があるでしょう。これらの観点は、装置固有の技術力そのものよりも、品質を継続的に担保できる「開発の進め方」を見極める視点だと言えます。
まとめ
- AI需要を背景に装置市場は急拡大している一方、それを支えるソフトウェア人材の確保は市場の伸びに追いついていない
- 装置制御ソフトの開発は、外注・内製のどちらか一方に振り切っても、ドメイン知識の説明コストや工数不足という別の問題にぶつかりやすい
- 「技術者の常駐支援」という体制は、ドメイン知識を内製チームに残しながら品質を担保する開発プロセスを持ち込める選択肢になり得る