・大規模システム障害によるサービス停止
・セキュリティ脆弱性による情報漏洩
・使いづらいUIによるユーザー離れ
——こうしたソフトウェアの品質トラブルは、企業の信頼低下や多額の損害につながります。
2020年には某金融機関のシステム障害が1週間続き、社会問題にまで発展しました。
こうした事態を防ぐのがソフトウェア品質保証(QA)の役割です。
本記事では、ソフトウェア品質保証(QA)の基本的な定義から品質管理(QC)との違い、効果的な品質保証の進め方、さらに品質を強化するための実践的な施策まで体系的に解説します。
ソフトウェア品質保証(QA)とは?
ソフトウェア品質保証(Quality Assurance、QA)は、ソフトウェア開発プロジェクトにおいて製品の品質を確保し、利害関係者に「このソフトウェアは期待通りに動作する」と確信させるための活動全般を指します。
QAの重要なポイントは、不具合を最終テストで取り除く「事後対応」ではなく、最初から品質を作り込む(Built-in Quality)ことで不具合の発生自体を防ぐ「予防的アプローチ」であることです。品質は開発の最終段階で慌てて検査するものではなく、開発の初期段階から計画的・体系的に作り込むものです。
ソフトウェア品質の構成要素
ソフトウェア品質とは「そのソフトウェアがユーザーや顧客の期待・要求をどの程度満たしているか」を表す概念です。ISO/IEC 25010では、ソフトウェア製品の品質を8つの特性で定義しています。
ISO/IEC 25010が示す8つの品質特性
品質特性 | 概要 |
①機能適合性 | 実装された機能がニーズを満たす度合い |
②性能効率性 | システムの実行時の性能や資源効率の度合い |
③互換性 | 他製品やシステムと機能や情報を共有、変換できる度合い |
④使用性 | 効果的、効率的に利用できる度合い |
⑤信頼性 | 必要時に実行できる度合い |
⑥セキュリティ | 不正に悪用されることがなく、情報やデータが保護される度合い |
⑦保守性 | 効果的、効率的に保守や修正ができる度合い |
⑧移植性 | 効果的、効率的に他のハードウェアや実行環境に移植できる度合い |
このような品質モデルにより、単に「バグがないこと」だけではなく、使いやすさや保守のしやすさなど、ソフトウェアの多面的な価値を評価できます。また、この品質特性を明確に定義することで、開発者とユーザー間の品質認識のギャップを埋める役割も果たします。
品質保証(QA)と品質管理(QC)の違い
品質保証(QA)と品質管理(QC)は混同されがちな概念ですが、その目的や活動内容は異なります。
QAとQCの主な違い
区分 | 品質保証(Quality Assurance, QA) | 品質管理(Quality Control, QC) |
定義 | ソフトウェア製品やサービスが、要求された品質を満たせるようにするための計画的・体系的な活動全般。 プロセス全体(開発プロセスや運用プロセスなど)を通じて、品質を「作り込む」仕組みを確立・維持することを目的とする。 | 実際に作られた製品が、要求された品質基準を満たしているか「検証・確認」する活動。 検査・テスト・レビューなどを通じて、不具合の発見や再発防止に努めることを目的とする。 |
目的 | プロセス指向: 予防的アプローチ。 「品質の確保」:良い品質が最初から作り込まれるようなプロセスやルールを整備し、運用すること。 | プロダクト指向: 検出的アプローチ。 「品質の確認」:製品や成果物が品質基準に適合しているかどうか、個々の工程や最終製品でチェックすること。 |
活動 | ・開発プロセスの標準化・品質保証計画の策定・教育・トレーニング・プロセス監査(モニタリング)・手順書やガイドラインの作成など | ・テスト実施(単体テスト、結合テスト、システムテスト等)・レビューや監査・バグ分析・出荷前の最終検査など |
対象 | 開発“プロセス”(手順や方法、組織全体の取り組み)に注目 | “成果物”(ソフトウェアや文書など)そのものに注目 |
タイミング | 開発の事前・全体的に実施。 | 各工程やアウトプットごと、開発の途中や終了時に実施。 |
簡単に言えば、QAは「適切なやり方で開発すれば良いものができる」という仕組み作りと保証、QCは「できあがったものが良いか悪いかチェックする」という製品検証です。
QAとQCの関係性
QAとQCは対立する概念ではなく、互いに補完し合う関係にあります。品質保証(QA)の中に、その一要素として品質管理(QC)が含まれるという階層構造で理解するとよいでしょう。
例えば、テスト計画を立て、テスト環境を準備し、テスト基準を定めるのはQAの活動ですが、実際にテストを実施して不具合を見つけるのはQCの活動になります。QA部門が定めたプロセスや基準に従って開発チームがQC(テスト)を行い、その結果データをQAが分析・フィードバックしてプロセス改善につなげる、というサイクルで品質保証を進めていきます。
品質保証(QA)の進め方5ステップ
ソフトウェア品質保証を効果的に進めるには、以下の5つのステップを踏むことが重要です。要件定義から保守まで、ソフトウェアのライフサイクル全体をカバーしながら、計画的に品質を作り込んでいきましょう。
1. 品質目標を設定する
品質保証の第一歩は、「どのような品質を目指すのか」を明確にすることです。先ほど挙げたISO/IEC 25010の8つの品質特性をベースに、プロジェクトの特性や要件に応じた具体的な品質目標を設定します。
例えば、次のような形で定量的・定性的な目標を設定します。
・「重大な不具合(サービス停止を引き起こすもの)をゼロにする」
・「応答時間は95%のケースで1秒以内を保証する」
・「操作説明なしでも90%のユーザーが主要機能を利用できる」
このとき、非機能要件(性能・セキュリティ・使いやすさなど)も忘れずに目標化します。また、受入基準も明確に定義し、どの程度の品質であれば「合格」とするかの基準を、開発チームとステークホルダーで合意しておきましょう。
2. 品質保証(QA)のプロセスを設計する
次に、品質目標を達成するためのQAプロセスを設計します。これには以下のような要素が含まれます。
・テスト計画の策定(何をいつどのようにテストするか)
・役割分担の明確化(誰が何の品質に責任を持つのか)
・標準やガイドラインの整備(コーディング規約、設計ルールなど)
・審査ポイントの設定(各工程のチェックポイントと判断基準)
・品質管理ツールの選定(テスト管理、静的解析、CI/CDなど)
例えば、テスト計画では単体テスト、結合テスト、システムテスト、受入テストなど各段階においての環境や基準を明確にしておきます。QAプロセスは「計画→実施→確認→改善」のPDCAサイクルを回せる形で設計することが大切です。
3. 開発工程に品質保証を組み込む
設計したQAプロセスを実際の開発工程に組み込み、上流から下流まで品質を作り込んでいきます。各工程での主なQA活動は次のとおりです。
要件定義フェーズ
・要件の明確化と合意形成
・曖昧な要件や抜け漏れのレビュー
・品質要求(非機能要件含む)の定義
設計フェーズ
・設計ドキュメントのレビュー
・機能仕様が要件を満たしているかの確認
・セキュリティや保守性など品質特性の観点での評価
実装フェーズ
・コーディング標準の遵守
・コードレビューと静的解析
・単体テスト(ユニットテスト)の実施
テストフェーズ
・結合テスト・システムテストの実施と監視
・テスト網羅率や不具合検出率の評価
・第三者による受入テストの立ち会い
上流工程で品質を作り込むほど、不具合の早期発見と修正コスト削減につながります。特に要件定義や設計段階での品質レビューは、後述する「Shift Left(シフトレフト)」の考え方に基づき重視されています。
4. 品質を検証し、数値で把握する
品質は定性的な感覚だけでなく、定量的なメトリクスを用いて「見える化」することが重要です。主な品質メトリクスとしては以下のようなものがあります。
欠陥密度(KLOCあたりバグ件数)
テスト網羅率(カバレッジ)
モジュール複雑度(サイクロマチック数)
レビュー指摘件数
故障収束傾向
これらのメトリクスを計測し、過去データや業界ベンチマークと比較することで、現在の品質レベルを客観評価します。例えば「単体テスト段階の欠陥除去率」が低ければ、結合テスト以降での不具合混入リスクが高いと判断し、対策を講じる必要があるでしょう。
特にリリース判定時には、これらのメトリクスを元に「この状態で出荷して問題ない」と合意形成を図ります。品質保証部門が出荷許可のサインオフを行う体制を設けている企業も少なくありません。
5. 改善を継続する
品質保証はリリースで終わりではなく、保守・運用も含めた継続的なプロセスです。以下のような活動を通じて改善を続けます。
・発生したインシデントの分析
・顧客フィードバックの収集
特に重大なインシデントについてはレビュー会を開き、原因と対策を組織で共有しましょう。
品質保証のPDCAサイクルを効果的に回すためには、品質に関するナレッジを組織内で共有し、全員が品質を重視する文化を醸成していくことが大切です。
品質保証を強化する4つの施策
より高い品質を効率的に実現するための効果的な施策を4つご紹介します。
1. 早期テスト(Shift Left Testing)
シフトレフトテスト(Shift Left Testing)とは、テスト活動を開発ライフサイクルの早い段階(上流工程)から始めることで、不具合を早期に発見・修正する手法です。
従来のウォーターフォール開発では、テストは開発工程の後半(右端)に行われることが多かったのですが、それでは不具合が後工程で発見された場合の修正コストが大きくなります。シフトレフトでは、要件や設計段階からテストの観点を取り入れ、テスト可能性を考慮した設計を行い、早期からテストケースを検討します。
例えば、実装とテスト設計を並行して進めることや、テスト駆動開発(TDD)を採用すれば、コーディング直後に単体テストを実施できます。シフトレストテストであれば不具合の早期検出と修正が可能です。
2. コードレビューの活用
コードレビューは、開発者以外の第三者がソースコードを読み、問題点を指摘・改善するプロセスです。これにより、開発者本人が気付きにくいミスや設計上の問題を発見しやすくなり、バグの低減と品質向上につながります。
コードレビューはチーム全体の技術力向上にも寄与します。コーディングスタイルやベストプラクティスをチーム内で共有することで、メンバー全員のスキルアップにつながるという副次効果が期待できます。
3. 自動テストの導入
テスト自動化とは、ソフトウェアを使ってテスト活動を実行・支援する仕組みです。手動テストと比較して、以下のようなメリットがあります。
- テストを繰り返し実施するコストの大幅削減
- 人的ミスの排除による信頼性向上
- 夜間やCI環境での継続的テスト実行による開発サイクル短縮
特に単体テスト、API結合テスト、回帰テストなど反復実行が多いテストでは自動化の効果が高く、高速に大量のテストケースをこなして不具合の早期発見ができます。加えてCI/CDパイプラインに自動テストを組み込み、コードの変更があるたびに自動的にテストを実行する環境を整えれば、一定の品質が担保されます。
ただし、自動化に向かないテスト(UIの主観評価など)もあるため、手動テストと自動テストは適切に組み合わせましょう。また、自動テストの初期構築やスクリプト保守にもコストがかかることを認識しておきましょう。
4. 第三者検証の活用
第三者検証(Independent Verification & Validation, IV&V)とは、開発チームとは独立した第三者機関がソフトウェア製品の検証・評価を行う手法です。専門のテスト会社に依頼するケースや社内の独立監査部門が担当するケースがあります。
第三者検証の主なメリットは以下の通りです。
- 開発当事者のバイアスなく客観的に品質評価ができる
- 専門家の知見により網羅的なテストが期待できる
- テストリソースを外部で賄える
特に金融システムや医療機器、公共システムなど高い信頼性が求められる領域では、第三者検証が積極的に活用されています。製品の信頼性や透明性が第三者によって保証される点は大きなメリットでしょう。
ただし、コストがかかることや、開発とのコミュニケーションが不足すると不具合対応にタイムラグが出る可能性もあるため、プロジェクトの特性や予算に応じて検討すると良いでしょう。
まとめ
ソフトウェア品質保証(QA)は、単に不具合を見つけて修正する活動ではなく、開発の初期段階から計画的に品質を作り込み、プロセス全体を通じて品質を担保する重要な工程です。
高品質なソフトウェアは、顧客満足度の向上だけでなく、開発・保守コストの削減や、企業の信頼性確保にもつながります。品質は検査で担保するものではなく、組織全体で作り込むものだという意識を持ち、品質保証(QA)への取り組みを徹底していきましょう。
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